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1999年1月10日
1999 Making of 年賀状
あけましておめでとうございます。ってかなり遅いか。
正月と言えば年賀状ですが、私はこと年賀状作成に関しては決して妥協を許さないたちで、毎年毎年凝ったモノを作っています。
よく、「凄いねぇー」と言われますが、当然それだけの時間をかけています。
と言うわけで、1999年の年賀状を如何にして作成したかを一挙公開いたします。
原案
1998年12月某日
おいおい、今年の(1999年元旦に配られる)年賀状どうしようかぁ。
子供どもにウサギの耳を付けて・・俺は Play Boy のTシャツ着て出ようか?
風香をバニーガールにしてさ・・・
と悩むこと数日・・・・
ウサギのことばかり考えていた私が突如ひらめきました!
不思議の国のアリスだ!決まりだ!もう絶対この案で行くもんね!
風香がアリスで、泰我が時計を持ってるウサギで・・・そうだなぁお前はトランプを仕切ってる女王でもやればいいよ・・・
というわけで、とりあえず紀ノ国屋へ行ってディズニー版の「不思議の国のアリス」を購入。参考となるシーンを探す。
だいたいの構成を次のように決めた。
● 風香にいかにもアリスと分かるように水色の服、できればドレスを着せる。
● 泰我は頭にウサギの耳を付けて時計を持たせて立たせる。
● 2人を取り囲むようにしてトランプの兵隊を並べる。
● 後ろの方で貴子扮する女王がそれを取り仕切るよう立っている。
問題は上記の映像の実現方法だが、人物以外は全て3Dのポリゴンで表現することにした。ここからパソコンによるCG作成に入る。
3Dオブジェクトのモデリング
人物以外は全て3DのCGで実現すると決めたのはいいが、これは非常に骨の折れる仕事である。
まず、CGの背景をなすオブジェクトを全てモデリングする必要がある。
今回はトランプの兵隊、家が最低モデリングする必要がある。また、貴子演じる女王もそうと分かる服があるはずもなく、顔と手以外は3Dのオブジェクトで作成し、最終的に合成させることになった。
まずは簡単なところから、泰我の頭に付けるウサギの耳を作成。
当初はウサギの耳を紙などで作って、泰我の頭に載せようとも思ったが、これらも全てデジタル合成を行うことにした。
この画像は「sPatch」と呼ばれるモデリング・ソフトである。、曲線的な3Dオブジェクトの作成に威力を発揮する。ちなみにフリー・ソフトである。
同様に女王の顔と手を除く部分を作成。さすがにこの女王は曲線の多い人間の体だけに非常に面倒なモデリングとなった。
sPatch ではその他に簡単な家などをモデリングした。
お次は、トランプの兵隊である。
トランプの兵隊は曲線が少なく、今回のCGでも比較的大きく描画されるため、「Moray」と呼ばれるモデリング・ソフトを使用した。
このソフトは大変多機能であり、3Dのオブジェクト作成に関しては至れり尽くせりのソフトである。私が、普段メインで使用しているモデリング・ソフトでもあり、信頼性が大変高いこともこのソフトの特徴である。
もともとドイツ製のソフトであり、今回はインターネットを通じてクレジット・カード決済で購入した。値段は US $100 。カードの決済日は偶然にも円高傾向にあったため、予想より安い費用で購入することが出来た。
レンダリング
3DのCGを最終的に仕上げるのはレンダリング・ソフトの仕事である。
レンダリング・ソフトは、光源の位置や向き、カメラの向き、オブジェクトの色属性や座標等、様々な指定を行うことにより、最終的な1枚のCG画像を作り上げる。
今回は「Pov-Ray」と呼ばれる高性能レンダリング・ソフトを使用した。
このソフトはハイクォリティのレンダリングをすることで知られ、フリーソフトであるにもかかわらず、映像のプロまでもが好んで使用するソフトである。実際にCMの3DCGの作成に使用されることも少なくない。
左の画像を見てもらえば分かるとおり非常にシンプルなソフトである。というのも全てテキスト・ベースで画像を設定するからである。
オブジェクトの位置、属性、汚れ具合、空の雰囲気、光源の位置、ピンぼけの設定、等々全てが全てテキストで指定する。
慣れないと非常に取っつきにくいソフトであるが、詳細な設定を行うためにはテキスト・ベースに勝るインタフェースはないと思う。
というわけで、先ほど作成したオブジェクトのデータを全てこのソフト用に変換してテキスト化する。それをこのソフトのエディタ上にコピー・ペーストして、詳細な設定を行う。実はこの設定が一番気を使い、一番時間が掛かる。CGの最終的なクォリティは全てこのソフトでの設定にかかっているからである。
先程作成のオブジェクトのほかに、背景となる木や、芝生も作成する。
木の場合、ランダムに木を作成させる便利なソフトがあり、そのソフトを使用して木を作成し、レンダリング・ソフトに設定を記述した。
芝生の場合は、鋭利な緑色の三角形ポリゴンを作成し、これをランダムに回転させるよう設定しておき、約500万個!のポリゴンで地面を満たすように記述した。こうすることで、ポリゴン一つ一つが芝生の草1本で、それを500万本植えたのと同じ効果が得られる。
以上の細かい設定を行い、レンダリングを開始する。
これより先パソコンは非常に膨大な計算を行い、一枚の画像を完成させる。ちなみに1昼夜パソコンを動かし続けてレンダリングが完了したのはなんと30時間後!であった。
ちなみに、実際の画像は 1024 x 768 で作成した。
この画像を作り出すまでには何度となく試行錯誤を重ね、膨大な手間と時間が掛かっている。
光源はカメラの真後ろ、奥の丘あたりはピントが若干ぼけるように設定してある。
影の向きがおかしいのでは?との指摘を妻から受けたが、なるほどトランプの影と木の陰の向きが違う。しかしこれはよく考えると正しい。実際このような光景を普段見ているはずである。
ちょっと考えれば分かるが、限りなく平行に近い光源(太陽光線)がちょうど真後ろにある場合、影は中央に向かって伸びるのである。これは遠近感を出す三点透視法のなせる技であり、我々も普段この透視法で物を見ている。
我々が頭で思い描いている映像と、現実の映像とのギャップを再確認するようである意味、新鮮な驚きであった。
人物の撮影、取り込み
ここまできたら、後は人物を合成して終わりである。90%は終わったと見て良い。
残りの処理はそれほど手間も時間も必要としない。
ところが、最後の最後になって問題が発生した。それは風香の青いドレス姿である。タンスの中を見てもそのような衣装は存在しない・・・
あまりにも「アリス」とかけ離れると面白みが半減する。
そこで、過去に七五三の際に撮影したドレスの写真を使用することにした。
右側が七五三の際にスタジオで撮影した写真である。
これを画像処理によって服の色だけを変えることにした。
赤を青に、緑を白に、そして頭の髪飾りを黄色に変換して出来たのが左側の写真である。
それなりのソフトさえあれば、どんな画像処理も可能である。
今回使用したテクニックを使えばモノクロ写真をカラー写真に作り替えてしまうことも可能である。
今回の画像処理も含め、これ以降は全て「Picture Publisher」というビットマップ処理を行う市販ソフトで行った。価格は3~4万円ほどだったと思う。
次は泰我である。大きな目覚まし時計を持たせて、デジタル・ビデオで撮影した。
デジタル・カメラを使用することも考えたが、いい表情を撮るには連続的に撮影を続けているビデオ・カメラの方がいい。
撮影後、パソコンにビデオを接続し、ビデオ・キャプチャーにより画像を取り込んだ。
ビデオ・キャプチャーには動画用のキャプチャー・ボードを使用し、必要なフレームだけを抜き出しビットマップ化した。
左の写真を見ての通り、何のことはない、実は台所の食卓テーブルの前に立っていたのである。
その他、女王の顔となる貴子と自分をビデオで撮影して同じくパソコンに取り込んだ。
以上で、全てのリソースが揃った。後はこれらを一枚の絵に合成するだけである。
完成!
まずはその画像を載せる
家族4人を配置し、エッヂが目立たぬよう背景となじませるなどの処理を経て最終的な画像が完成となる。
実際の画像は 1024x768 であり、ファイルサイズは1Mbyteを越えるためここでは掲載できないが、非常に綺麗な仕上がりとなった。
実際に年賀状へ印刷するとかなりクォリティが下がってしまったのが残念であった。
また、せっかく時間をかけてモデリングした「女王」や「家」が結局、人物に隠れてよく見えなくなってしまったのも悲しい。
とにかくこのようにして3DCGは完成したのである。
のべ時間にして50時間を費やしての完成であった(もちろん30時間かかったレンダリングの間はパソコンにつきっきりという訳ではないが・・・)。
投稿者 abeshin : 1999年1月10日 02:45